茅ヶ崎 太陽の郷
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太陽の郷随想(よみもの)

クローズアップ現代を見て


2003年2月6日のクローズアップ現代は、(1)レジオネラの恐ろしさ、(2)大型温泉浴槽からの感染、(3)浴槽内のレジオネラの動向、(4)水質管理の問題点、(5)レジオネラに対応するための装置(器具)等の紹介でした。

放送画面から受けた印象を要約します。
最近循環式の温泉浴槽が感染源となり、重症となる肺炎(レジオネラ菌感染)を発症する例が増えている。レジオネラは、他の微生物の体内で特殊な分裂増殖をするため、抗生剤が効きにくく、特に高齢者では死亡する場合もある。

番組の例は、高齢者の右肺下野に発症したレジオネラ肺炎で、○○温泉施設のジャグジー風呂から検出されたレジオネラと、免疫学的に同種であることが判明した。なおこの施設は、厚生労働省が指導する管理規定に沿った浴槽管理を行っており、残留塩素濃度記録からも、管理上の問題を発見できなかった。

近年温泉の人気は高く、老若男女を問わず一種のブームになっていることから、多数の入浴者に対応できる設備が必要となり、浴槽は大型化し多様化している。
また、温泉汲み上げ量と需要のバランス(または、経済的理由)から、温泉水を循環濾過しながら利用する大型施設が増加し、レジオネラ感染の危険性が増加してきた。

先ず、重症肺炎の原因となるレジオネラ感染の経路を辿ってみよう。
野外の土などに常在するレジオネラは、人の体を介して(付着して)浴槽に入る。
昔の温泉のように、絶えず温泉を浴槽に注ぎ、(小さな)浴槽から溢れさせている場合は、体に付着して入り込んだレジオネラも、他の汚れと一緒に流れ出るため浴槽内に留まらず、感染の危険性も少なかった。
ところが、浴槽の温泉水を循環濾過しながら利用する最近の大型施設では、レジオネラが浴槽に徐々に増加し、感染の危険性が増加する。

浴槽内にレジオネラが増加するのは、温泉施設に設置されている濾過器が垢など大きな汚れ(ゴミ)を排除できる程度の能力であり、微生物(レジオネラ菌等)を取り除くことはできない。そこで、レジオネラは濾過器を通過して浴槽に戻り貯留するため、菌の数が次第に増え、感染の危険性も増加する。
困ったことに、レジオネラには配管内面の生物膜(内面に付着している汚れ)で増殖する性質があり、これが浴槽に流れ込んでレジオネラ数が急増する。
ジャグジー風呂の水面には、泡がはじけてできた小水滴が漂っている。番組の肺炎例も、この小水滴内包されたレジオネラを、肺に吸い込み感染したものだ。
一方、○○温泉施設の温泉管理記録(塩素濃度測定回数・塩素濃度維持時間等)は、厚生労働省の指導に忠実であったことが示されていた。なお、感染があった日の入場者は多く、通常の数倍であり、浴槽中の塩素濃度が急速に低下する傾向にあったことが分かっている。
以上、放送画面から受けた、一視聴者の印象を要約しました。

この番組を見て、楽しみにしていた家族での温泉利用を、急遽中止したお年寄りがあったかもしれません。それほどに、行政指導では対応できない"レジオネラの恐ろしさ"がクローズアップされていました。
7時のニュースに続いて放映される「クローズアップ現代」、視聴者は、"課題を限定した詳細な報道"のみでなく、"問題点をクローズアップした実証的解説"から、"日常生活に役立つ、適切な判断材料(生活情報)"を期待しているのではないでしょうか。

集団感染等が発生すると、事件内容の報道に加えて、いわゆる"魔女探し(決められた基準による責任者探し)"が報道の主要な要素であり、視聴者もそれを望んでいると考えられます。
しかし、従来の基準での魔女狩りでは、今回の問題を解決することは難しく、今後も事件は繰り返されるでしょう。起こるべくして起こった事件は、同条件での再発を防げません。根本原因の追及が必要です。

番組は、忠実に行政指導を実施した者が起こした事件です。レジオネラ感染のメカニズムがはっきりするほど、視聴者の不安は募ります。魔女はどこにいるのでしょうか。
魔女と判定する基準として、「行政指導に沿った運営がなされていたか」を取り上げることが、現在の習慣になっています。このため、番組の魔女裁判は判定根拠を失い、「納得できる魔女狩り」を放映できなかったのでしょう。視聴者の不安は増大します。

普通の水(水道水)を利用する温水プール(大浴場)とは異なり、多様な水質をもつ温泉の管理は、温水プールや公衆浴場とは、比較にならない難しさがある筈です。しかし、レジオネラの増殖に関与するとされる生物膜を、器物の表面に形成することを防止するには、既存の知見が利用できます。レジオネラ症防止対策の第一歩は、生物膜をつくらないこと(生物膜形成環境の除去)であると思います。
感染を防止出来なかった行政指導は、生物学的見地から見れば、「低い評価」となります。

茅ヶ崎太陽の郷(有料老人ホーム)は、20年前に大断面集成材によるプール棟を建設しました。このプールは、一般温水プールの1/10の燃料で快適温熱環境が維持できることや、長期間(10年以上)プールの水を交換しなくても、常時飲料水適の水が維持できることなど、様々な特徴をもっています。

このプールの建設にあたっては、当時の行政指導「遊泳用プールの設置基準や管理方法」(厚生省通知)と当方の計画に、様々な点で相違がありました。考え方が基本的にことなるため、計画の実施にはいるまで長い時間を要しました。
営業開始から20年、行政指導上問題の多い太陽の郷のプールは、災害時にはプール水(450トン)が飲料水として使用できる状態で、スポーツクラブとして運営されています。
番組から受けた印象をもとに、行政指導の問題点に触れたいと思います。

平成13年9月、厚生労働省は、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」を都道府県宛に通知しています。
このマニュアルは、「レジオネラ感染を防止するための、具体的な管理方法等」をまとめたもので、平成12年度厚生科学研究の知見に基づいてつくられたと記されています。
マニュアルは、Tレジオネラ症とは U感染源及び感染経路 V循環式浴槽の管理方法の3部から構成され、従来の「設置運営指導指針等」とは、記述方法など多くの点で変化がみられます。
特に、マニュアル作成の根拠(平成12年度厚生科学研究の基づく知見)が明らかになったことや、「○○を具備すること・○○であること・○○をすること」等の画一的な指示表現がなくなっていることに気づきます。

残念なことに、このマニュアルの内容は、扱う対象が開放された大容量の水であることや、動力で運転される諸設備の管理に関わる点で、認識の甘さや配慮の欠如が目立つと思われます。

解放空間にある大容量の水(温泉水等)を、滅菌(徹底的に殺菌すること)することは、困難です(経済的理由等)。
器物を煮沸消毒(滅菌)するのとは異なり、消毒用アルコールで手を消毒しても、皮膚に付着する細菌総てを殺菌するのではありません。一部は殺菌されますが、一部の細菌には、活力を抑制する程度の効果である場合もあります。
そこで、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」に屡々使用されています「消毒」と言う言葉(用語)が気になります。広辞苑には、「病原菌を殺し感染を防止すること」とありますが、分裂増殖を抑制する意味はないようです。
プールや大浴槽の細菌を考える場合には、菌を徹底的に殺菌することより、微生物(細菌)の分裂を抑制し増殖を阻止するのが、現実的であり可能な方法です。
行政指導で繰り返される「消毒」との表現は、細菌数を制御する経緯に誤解を招き、誤った方向に管理される恐れがあります。

昨年8月、日向市第三セクターの施設でレジオネラ症感染事故がありました。報道によれば、魔女狩り裁判において、「国の基準では、加温機の温度設定を60°にすることになっている。しかし、被告は国の基準を無視し55°にセットしていた。集団感染の原因の一つはこの加温機であり、セットした管理者である。」と判決したようです。
全く理にかなわない、あきれた判断です。もっとも、魔女裁判の規範には、理論は関係しませんから、当然の判決かもしれません。
現在手元にある「レジオネラ症防止対策マニュアル」をもとに判断すると、この判決が出ても不思議ではなく、あり得る結論かもしれません。

そこで、クローズアップ現代の番組内容(配管内の生物膜等)と、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル(マニュアルと略す)」を中心に、行政(厚生労働省)指導の適正さを検討します。

レジオネラ症防止対策として、当方が考えている必要項目を列挙します。
細菌の分裂増殖を防ぐ
(1) レジオネラ症感染防止には、浴槽内のレジオネラ数を少なくする(無くす)ことが、なにより大切です。
(2) 菌(数)の増加を防ぐには、浴槽その他でおこる細胞分裂を抑制(阻止)し、細菌増殖を防ぐことが現実性のある方法です。
(3) 細菌の分裂を容易にする至適環境は、酸化還元電位(ORPと略す)により左右されることは、既によく知られています。
(4) プールの水を720mv(ORP値)以上の環境に維持しておけば、好気性菌であっても、分裂増殖することが出来ないとされています(20年前のドイツKOK基準)。
(5) 現在、プールの大部分が消毒剤?として使用している次亞塩素酸ソーダは、ORPを制御する塩素剤として使い易く、すでに多くの実績があります。
(6) 壁面に接触している水のORP環境が、常時720mv以上であれば、細菌は壁表面を足場として分裂することが難くなり、いわゆる生物膜を生じません。
(7) 言い換えれば、壁面に生物膜ができることは、壁面に接する水のORP環境が、不適正であるとの証明になります。
(8) 生物膜の存在が、レジオネラの増殖に大きく関与しているとすれば、生物膜をつくらないことが、レジオネラ症防止に有効な対策となります。
(9) レジオネラ症の感染を防止するには、肺に吸い込まれる細菌を少なくする(または、なくする)ことが重要です。すなわち、小水滴に内包されるレジオネラの起源は浴槽水ですから、浴槽内のレジオネラ数が問題です。そこで、浴槽内の細菌の分裂を阻止し増殖を抑制するため、次亜塩素酸ソーダを(消毒のためでなく)、適正なORP環境を維持するために使用することが必要になります。
浴槽(プール)内の水質を均一にすること
大容量のプールや浴槽を、均一な水質に保つことは技術的に難しく、実験室の経験では判断しづらい問題があります。すなわち、動力を使用して大容量の水を動かし、均等な流れをつくって、効率よく(経済的に)水を循環させる方法の検討です。
多くの方法が考えられますが、ここでは、太陽の郷温水プールにおける、20年間の経験をもとに、適切であった方法・考え方を記します。

既存の水(汚れた水)に、新しい水(きれいな水)を攪拌しながら注入し、溢れさせて徐々に水をきれいにする方法を、希釈方式とします。次に、汚れた水を総て捨ててから、、新しい水を入れてきれいにする方法を、換水方式とします。
大容量のプール(浴槽)では、可能な限り換水方式の流れを使うことが経済的であり、均一な水質を維持できることが分かりました。
最も単純で完全な換水(濾過)方式は、二つの容器(浴槽)の間に濾過器を置くことです。一方の浴槽から他方の浴槽に移動するとき、全量の水が濾過器を通過します。そこで、これを換水濾過方式と呼ぶことにします。
次に、一つの容器で換水濾過方式の効果に近づけることを考えます。
容器(プール)の形状を単純化し、一方から向かい側に、流速を落として新しい水(濾過水)を注入し、既存の水(汚れた水)と混ぜないように反対側に押し出し、濾過器に誘導すると、混合希釈される部分は減少し、換水濾過方式に近づけることが出来ます。
プール・浴槽管理の実際
(1) ORPを720mv以上に維持するため、ORP・pH・遊離残留塩素を測定します。
(2) 次亜塩素酸ソーダの注入は、遊離残留塩素濃度と連動させ、自動注入することが最も望まれます。
(3) センサーは、プールよりの還水部に置き、薬液自動注入器と連動させます。
(4) 測定や注入が自動化できない場合は、当該プール(浴槽)の収容能力(時間あたりの利用者限度数)を運転経験から求める必要があります。
(5) 自動・手動どちらの場合も、塩素剤の注入場所は、供給側の配管とするのが得策と考えます。
(6) 手動による塩素剤注入量の決定は、当該プールの利用者数と利用時間により定めます。
(7) なお、当該施設の時間あたりの利用者(限度人数・定員)を予め定めておくことが、水質を管理する上からは便利です。
(8) 現在のDIN基準は不知ですが、20年前にあったドイツのKOK基準の決め方は、よい参考資料となる筈です。軟水、硬水に関わらず、考え方を参考にすべきです。
簡単な水質監視法
最後に、機器を使用しないで、誰にもできる簡単な水質監視法を紹介します。
人の五感により観察するこの方法は、微細な生物そのものを対象にし、または、生物の存在により起こる現象を観察するものです。古くから知られていることであり、今後の環境問題対処法として、一つの示唆を示すものと考えております。
(1) 使用する水が透明な場合は、水の白濁(高濃度の細菌)を監視することで、多くの情報が得られます。監視方法は、暗くした浴槽内に、光束を絞った光(懐中電灯の光)をいれ、チンダル現象の有無を観察します。
(2) 浴場やプール棟に、いわゆる塩素臭(塩素の臭いではなく、クロラミンの臭い)がないことを確認します。クロラミンの存在(塩素臭)は、プール(浴槽)内に、クロラミンを形成するものがあることを示し、水質が適切に維持されていないことを示します。汚れの原因を見つける必要があります。
(3) プールや浴槽付近の床・排水溝の表面に、ヌルヌルがあれば、細菌が盛んに分裂増殖していることを示します。直ちに原因をみつけ処理する必要があります。
TVの映像で紹介された配管内壁の厚い生物膜は、配管内面で長い期間細菌の分裂が繰り返され、細菌等の微生物が増殖してきた証拠です。もしこの配管が、浴槽からの還水経路であれば、当然浴槽内の細菌も、旺盛に分裂増殖していたと予想されます。

日光が差し込まない温水プールや、使用後一日を経過したお風呂にみられる白い濁りは、大部分が細菌(桿菌)であり、菌の懸濁を白濁として見ています。
直径1cmの試験管の水に、一千万個の細菌を懸濁させると、微かな白濁として見ることができます。(前述の、チンダル現象が見られる細菌数は不知です)

厚生労働省が指導している、大容量の水質管理指導は、細菌増殖抑制の点で、適切なものとはいえません。検討を要します。
「レジオネラ症防止対策マニュアル」は、根本理念についての検討が急務であり、レジオネラ症増加の傾向に対し、一刻も早い対応が望まれます。
高圧水で配管内面の生物膜を洗浄しても、浴槽内が細胞分裂の至適環境であれば、すぐに生物膜は再発生します。生物膜発生を防止する処置が先ず必要です。
浴槽内の水質は、均一でなければなりません。狭い範囲であっても、至適環境が整えば、細菌はその場で増殖を繰り返します。
至適環境にある1個の細胞が、二分裂を30回繰り返すと、10億コになります。
遊離残留塩素濃度やORP値は、周囲の環境や時間の経過により変化していることに留意する必要があります。
遊離残留塩素濃度を、0.2〜0.4mg/Lに2時間保ったとしても、細菌の分裂を防ぐことは、恐らく出来ないでしょう。配管内面を厚く覆った生物膜が証明しています。 
遊離残留塩素の効果は、ph値により大変大きく変化することは、すでによく知られていることです。0.2〜0.4mg/Lに2時間以上維持するとの指導は、ph 値をどれだけに仮定してなされたものでしょうか。理論的に明快で、混乱を招かない基準が求められます。
 

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