茅ヶ崎 太陽の郷
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太陽の郷随想(よみもの)

温水プールの結露対策


年間を通じて利用できる温水プールは、浮力による体重負荷減少、転倒による傷害の回避、水の抵抗負荷を自らの加減で調整可能等、リハビリテーション(以下、リハビリと略す)環境には、極めて好都合の場です。
しかしながら、温水プールの建設は、一般的には施設建設費が大きく、日常の運転経費も嵩みます。
これに対して、太陽の郷のプール建設では、(1)合理的設備計画により設備投資を減少させ、(2)自然エネルギーを活用して、運転経費の軽減(CO2排出量の抑制)を図る計画をしてきました。これらについては、ホームページ「南湖院プール」「リハビリテーション研究室」「光(熱)を反射する」「リハビリの温熱環境」などで紹介しています。
今回は、当地3代目プール(リハビリテーション研究室プール(以下、リハ研プール))の新しい結露対策について、その概要をお話します。
 
1.温水プールの室内湿度が高いことの功罪について
温水プールは、広い水面からの蒸発と、建物全体を密閉することから、高い湿度で放置されているのが一般的で、重大な結露障害例をしばしば見聞きします。
30年も昔のことです。2代目プール(スポーツガーデンプール)の建設計画の折り、竣工2年後の温水プールを紹介され見学しました。建物の南面を、広く開け閉めできる湾曲したガラス戸の建物は、軽快な鉄骨造りがマッチして大変スマートな施設でした。
しかし、室内暖房機器が、漸くその形をとどめているほどに錆びていることや、プール棟に接する物置の鉄骨が、軽い打撃で崩れそうに錆びている姿に愕然としました。「今回のプール計画は中止すべきではないか?」当時の驚きと迷いが、今でも思い出されます。
鉄ではなく木を使えないか。
検討を進めていくと、板状に製材した木材を、何枚も接着剤で張り合わせて大きな断面を作る集成材が、大規模建築の構造材として利用できることを知ります。この頃既に、海外には野外の大断面集成材構造の架橋から大規模運動施設まで、目を見張る施工例が数多くありましたが、日本国内には施工例はなく、木造プール棟を目指す計画者の胸には期待と不安が交錯しました。
大断面集成材を製作する技術は、海外に負けないものがあるにも関わらず、施工例がない理由はなにか。長い部材を運ぶことが出来ない道路事情のためか、多湿な気候が災いして耐久性に問題があるのか、火災に対する弱点が懸念されるのか、そしてなにより、高温多湿環境のプールと木造構造の相性はあるのだろうか、等々です。
悩んだ末に当方が選んだ結論は。
怖いもの知らずの素人は、次に挙げる理由を根拠に、大断面集成材のプール棟を建設する決断をしました。
建設に踏み切った根拠は、(1)木の腐食や金属の錆びは、温水プール特有の高湿度による結露が原因、(2)公衆浴場や旧南湖院の大浴場・洗濯場・厨房等では、発生する水蒸気を、高い天井の換気窓から排除し、腐食事故はなかった、(3)冬は外気の湿度が低く、外気導入で乾燥に適した条件が得られる、(4) 高湿度環境は、皮膚からの蒸散を抑え、体温喪失を抑制できるので、プール使用中の温熱環境としては好ましいので、プール使用時間外でなんとか対策を考えよう、と考えました。温水プール建設の計画には2〜3年を要し、紆余曲折の後、1983年漸く竣工することができました。2代目プール、「太陽の郷スポーツガーデンプール」の誕生です。
 
2.一日を二分して管理する
竣工した1983年は、当地には珍しく10月末に結氷する寒い冬でした。ここで、予想を上回る結露被害の洗礼を受けることになります。
プール棟屋内のガラスや金属表面の結露は、目視により量的判断が可能ですが、壁内に使用した断熱材や屋根の下地材に使った発泡コンクリートの内部結露は、量的判断はおろか発生の有無さえ分かりませんでした。2代目プールの経験では、室内仕上げの表面に結露水による汚染が現れ、ようやく発泡コンクリートの内部結露に気づいた有様でした。
内部結露対策には議論百出、最終結論は「内部結露を防止するより、結露水を乾燥させること」でした。そこで、屋根下地の発泡コンクリートと屋根材との間に隙間を設け、外気が通れるようにするという改修を施し、内部結露を乾いた外気で乾燥させる構造として成功しました。
それと共に、プールを使用しない夜間、(1)プール表面をシートでカバーして水蒸気発生を抑制する。(2)その上で、室内に乾燥した外気を取り込むという運用面での対策(次項で詳述)を打ちました。
あれから20年以上が経過しています。ホームページ「リハビリの温熱環境」で紹介したように、3代目プール(リハ研プール)の建設に当たり、2代目プールの大断面集成材をそのまま使いました。2代目木造プールの解体移築に際し、大断面集成材を徹底的に調査し、2代目プールの結露防止策を検証しました。検証結果は「構造用集成材として再利用できる」であり、2代目プールの結露対策は成功でした。
 
2-1.昼間は人のため、夜は建物のために
湿度が高い環境は、着衣のない裸の利用者には、蒸散による体温喪失が抑制されるので、寒くない環境としては好都合です。利用者に好都合のこの高湿度は、冬期建物に結露を発生させ、金属や木材などに大きな被害を起こします。
そこで太陽の郷の2代目・3代目のプールでは、昼夜を分けた湿度管理法を実施しています。すなわち、昼間(営業時間)は利用者のために温熱管理を、利用者がいない夜間は、専ら建物保全のための湿度管理をするのです。
 
2-2.2代目プールの夜間結露対策
2代目プールで太陽の郷の採った夜間結露対策は、プールから室内への新たな水蒸気供給を絶ったのち、換気によって室内を乾燥させる方法です。具体的には、

(1) プール表面をシートで覆って蒸発を防ぎ、プール棟空間への新たな水蒸気供給を絶ちます。
(2) 絶対湿度の低い外気を室内に導入し、室内の水蒸気を戸外に搬出します。
(3) プール水面からの放射熱を利用して、壁面や天井面の表面温度を維持し、室内表面が露点に達することを避けます。

といった方法です。
2代目プールで実施した換気量は、室内気積の約2倍で、プールカバーシートを掛けた直後と、深夜の2回行いましたが、これにより、翌朝の室内相対湿度は、40〜50%に維持できました。
この結露対策の大断面集成材への効果は、20年後の検査で確認されました。2代目プールの「結露除去法」は成功しました。しかし、空気を搬送体として水蒸気排除を行うため動力が必要であり、また、プール水から蒸発のための気化熱を奪った水蒸気を外に排出するため、室内空間に移動した気化潜熱を失うことになり、全体としては熱エネルギーを失うことにもなります。
3代目プールは、CO2排出ゼロを目指しています。水蒸気排除のための動力を必要とせず、併せて気化潜熱を回収できる方策を考案しました。すなわち、積極的に結露を促し、自然に結露水を排除することで目的を果たします。
運用の結果、除湿に対する効果が確認できしたので、概要をお話します。
 
3.結露防止から結露促進へ
「室内水蒸気を積極的に結露させ、結露水を戸外に排除して室内水蒸気圧を下げる」のが、今回の「結露促進法」による除湿対策です。
除湿のためだけの設備機器は全く使いません。2代目プールで開発した可動式断熱戸仕様に、プール表面からの放射熱を遮断(反射)する反射機能を付加しただけの、ごく簡単な装置です。反射機能を持たせるために、断熱戸の下面にアルミ粉体を顔料とする塗料を塗装しました。
可動式断熱戸で構成する除湿機構 写真1、2の (1)(4)(5)は、プール側を反射板とした開け閉めできる可動式断熱戸です。(1)は全開状態の断熱戸、(4)(5)は半閉状態の断熱戸を示します。(2)はプール棟の南面屋根の下半分に設けたトップライトであり、 (3)は南面屋根の上半分に設けた太陽熱集熱パネルの室内側天井に貼った反射シートです。
冬期の夜間は、この断熱戸を最下部まで下げ、トップライトを塞いだ状態にします。トップライトのガラス(2)は 冷たい外気に冷やされて結露板となり、トップライトと断熱戸の間は、写真2のb〜cで示すように水蒸気の補給路となります。
写真1 可動式断熱戸で構成する除湿機構
 
除湿機構の働き プール水面からの放射熱は、反射板で遮断され(写真2 a)、結露板(トップライト(2))に達しません。
また、トップライト(2)と断熱戸(4)の間には、空気が流れる道ができ、対流(写真2のb→c)によって、室内の水蒸気を継続してガラス面に補給し、結露が続きます。この結露水は、トップライトの結露受けを経て戸外に自然に排除されます。この現象は、露点の条件がなくなるまで繰り返される筈です。
写真の断熱戸の反射板は、プールの水の色など様々な周囲の反射光を映していますが、このことからも、反射の効果が窺えます。
写真2 除湿機構の働き
 
曇りのないガラス カバーをとると、ガラスが曇る
写真3 曇りのないガラス
写真4 カバーをとると、ガラスが曇る
写真3、4は、プール棟南面のガラス戸を通して、プール棟の南側に位置する準備棟を撮影したものです。写真3は、プールカバーを外す前です。結露促進法では、翌日早朝の湿度を40〜50%に維持できますので、プール棟の窓ガラスは曇っていません。写真4は、プール使用のためカバーの片付け作業が終わった後の、ガラスが曇ってきた状況です。
 
3-1.プールカバーの問題点
写真5 は、プール全面をシートで覆った状態を示します。この写真は昼間に撮影したものですが、実際にこの状態になるのは、営業終了後の夜間です。
200平方メートルのプール表面を隈無く覆う作業時間は、カバーの材質・縫製法・作業手順等により大きく変化しますが、現在は2代目プールで検討され、長く実施してきた手法を継承しています。
蒸発を防ぐブルーシート シートの格納乾燥
写真5 蒸発を防ぐブルーシート
写真6 シートの格納乾燥
シートは、プール全面を2枚で覆う大きさに縫製しました。(写真5)
夜間態勢のためのプールカバーは、2人がシート両端を引き合う方法で、5分程度で終える手順ができました。また、遊泳準備のシート片付け作業は、シートを折りたたみ、壁面に吊し乾燥できる状態で格納しますが、この作業に、2〜3人で10分ほどかかります。(写真6)
 
除湿機構の働き プールカバーの役割は、水の蒸発を防止することですので、カバーの材質および耐久性が問題になります。この点、現在のブルーシートは、撥水性の耐久性がなく、劣化の早いことが今後の検討課題です。
斜めの光で、シート表面を見ると、劣化の状態がよくわかります。写真7では、シート表面にプールの水が滲み出ているのが分かります。この状態では、蒸発防止機能は全くなくなっています。
プールカバーの機能がなくなると、結露水の量は一気に増え、ガラス戸の結露水排水能力を超えてサッシの結露受けからあふれ出します。
写真7 撥水性を失ったシート
 
結露水溢水による汚れ 写真8は、あふれ出た結露水のシミです。
写真8 結露水溢水による汚れ
 
おわりに
屋内温水プールの窓の結露やいわゆる塩素臭(クロラミン臭)は、建物の管理や水質管理状態を示す指標になります。前者からは錆や腐朽の進行の恐れが、後者からは水質管理の不備が予測されます。
五感を使って建物の保全状態や、衛生管理状況を感覚的に判断する管理法は、時に計測数値を超える力を持つことがあります。
プールの水質管理については、後日お話しいたします。
 
2009年9月 高田準三記

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