茅ヶ崎 太陽の郷
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太陽の郷随想(よみもの)

カラスの撃退法!


「暖房温度は、省エネルギー(以下、省エネと略す)のため、室温を○○℃とすること」
寒い季節にしばしば出くわす公の指導です。
温水プールでは、「○○℃または、水温より○℃高いこと」等、裸での体感(寒いか寒くないか)には関係なく、室温のみの指導が現状です。競泳や激しい練習をする人たちには、この規定の室温は適温ではなく、運動量に伴って発熱が大きいため汗が出ます。
では、運動量が比較的少ない水中リハビリテーション(以下、リハビリと略す)の場合は、どのような温熱環境が望ましいのでしょうか。
地球環境への配慮が強く求められるようになった今日、CO2の排出を極力抑制しながら、寒くない室内環境を実現することは、プール施設を建設し運営するに当たっての重要な課題です。
太陽の郷の地には、かつて東洋一と謳われた結核療養所「南湖院」(1898年〜1945年、高田畊安開設)があり、治療や施設の運営に自然の恵みを巧みに利用してきた経緯があります。その一例として、現在のリハビリ治療にあたる「戸外の身心的体操」があり、プールも療養の一助に役立てています。プールは、1926年に造られましたが、これが当地に建設された初代のプールです。
自然の地形を利用して強い海風を防ぎ、人工の風除けを設けて寒さを和らげ、プールの構造を工夫して水質管理を容易にするなど、理に適った無理のない設計で、治療に適した環境を整えていました。
無理のない造りの施設は、故障もなく約半世紀にわたって利用され続けました。
有料老人ホーム「太陽の郷」(1978年〜)やその付帯施設である「太陽の郷スポーツガーデン」プール(1983年〜2006年)、「リハビリテーション研究室(以下、リハ研と略す)プール」(2007年〜)の建設および施設運営には、この無理のない理に適った手法が受け継がれています。

今回(2007年)の3代目のプール(リハ研プール)建設を機に、当地に続くプールの歴史を振り返り、屋内温水プールの温熱環境整備について考えたいと思います。
 
1.昔の思い出
敗戦から1年(1946年6月)、住まいを進駐軍に接収されたため、隣接地にトタン張りの物置を移築して暮らし、寒さ凌ぎの試行錯誤をした体験があります。
また40年前(昭和40年代)には、小児外科医としての仕事の中で、新生児の皮膚温が、周囲の温熱環境に大きく影響されることを経験しました。
実はこれらの体験が、太陽の郷温水プールおよびリハ研プールの温熱環境設計に、大変役立っているのです。
 
1-1.寒さ凌ぎの工夫
若き日、試験前日の夜、一本のろうそくをちゃぶ台の隅に立てて勉強しました。トタン張りの物置の内部には、隙間風が容赦なく吹き込んでろうそくの炎を揺らし、辞書は見づらく、また大変寒い思いをしました。
布団や毛布にくるまって体温喪失を防ぎ、お腹が空いていても無理に縄跳びをくり返して体温を上げるなど、その場凌ぎの寒さ対策をしたものです。
その後、古い毛布を集めてトタン板の内側に吊しました。隙間風は抑えられて、ろうそくの炎はまっすぐに燃え、確実に寒さが和らぐことが分かりました。
当時、毛布を吊す効果については、あまり気にしませんでしたが、後になって、隙間風の流速が遅くなったため、体表面の暖まった空気が保たれ、体からの熱喪失が少なくなったためであることが理解できました。
やがて住まいの物置にも、電灯がつきました。安定した明るさだけで、何となく温かさが感じられます。心理的な効果でしょうか。
布団の中に箱を置き、その中に電球を入れると、足先を温めることができます。電灯を熱源とした放射熱を利用した採暖装置で、後年製品化されて一世を風靡することとなった電気炬燵の原型と思っています。
 
1-2.「60年前の思い出」をもう一つ。
きれいなわら灰を火鉢に入れ、「夏下冬上」炭火をいじりながら、火おこしを楽しんだり、暖かさを探したり。温まった火鉢(写真1)の周りは穏やかな暖かさで、離れがたい何かがあります。ただ、掌を赤い炭にかざすと放射熱を熱く感じ、掌を動かしたくなります。この直火は熱すぎてあまり気持ちのよいものではありません。
一方、温まった火鉢の縁に掌を置いておくと、掌への熱移動がゆっくりと続き、気持ちが落ちつきます。体全体が温まってくるようです。
「血液循環による熱搬送効果」、これがはっきり認識できたのは、その後外科医になってからのことです。
写真1 火鉢
 
1-3.小児外科医の頃の経験
強く振らなければ水銀柱が降りない体温計(写真2)が主流だった40年以上昔のことです。
重篤な疾患を持つ新生児の皮膚温は、全身状態の善し悪しで様々な変化をします。
写真2 体温計
そこで、末梢循環(手足のゆび先など、心臓から遠いところの血液循環)の状態を知るため、銅・コンスタンタンの熱電対を直接皮膚に貼り付け、皮膚温の変化を連続記録出来る簡素な装置を作りました。ここで、不思議な現象に遭遇します。
 
1-3-1.保育器内での皮膚温の怪
保育器内の空気の温度は、常に一定に保たれており、空気の動きは極わずかです。新生児がまとった薄い肌着の断熱性は少なく、身体の部位による皮膚温に違いはあっても、皮膚温が時間的に大きく変動することはありません。
しかし、ある場所にある保育器では、新生児の皮膚温に異常な変化が記録されたのです。
全身状態の悪い新生児に顕著なこの現象は、スチーム暖房の放熱器の近くにある保育器で起こりました。(図1)
保育器内の赤ちゃんの放熱器側に面した皮膚温が異常に上昇するのです。保育器内の新生児は、全身状態が悪い例ほど皮膚温が顕著に変動します。末梢の循環が悪いと、熱を搬送する機能が低下するからです。
すなわち、放射熱で上昇した皮膚の温度を、体の他の場所へ移動させることが出来難くなっているためです。
図1 保育器とスチーム暖房放熱器
 
そこで、この現象を「全身状態の監視」に利用することとしました。(図2)
なお、暖房放熱器と保育器の間に、目隠し用の薄いスクリーンを置くだけで、この不思議な現象はなくなります。
図2 新生児手足のゆび 皮膚温測定点
 
1-3-2.手術台での皮膚温変化
冬期の深夜、新生児の緊急手術をよく行いましたが、ここでも不思議な皮膚温変化が見られました。
空調暖房は、冷えた手術室の室温を急速に上げてくれます。
新生児に適する室温になった時点で、小さな裸の体を保育器から出して、大きな手術台に移します。すると、皮膚の温度を測定しているレコーダーは、一斉に動きはじめ、指趾(手足のゆび・末梢部位)の皮膚温は、急激に降下します。
ところが、無影灯(手術野に影ができないようにする照明器具)を点灯して小さな体に焦点を絞ると、今度は赤ちゃんの皮膚温が一斉に上昇しはじめます。驚くほどの速さです。(図3)
深部体温(肛門温等)に変化がなくても、体表面の皮膚温が激しく変化する理由は何でしょうか。
図3 手術室
 
空調暖房は、部屋の空気の温度を容易に上げることができますが、手術室の床・壁・天井の表面温度は、冷たいままです。おそらく、冷たい天井や壁が、裸の赤ちゃんの体温を奪うのでしょう。
一方、無影灯は、大きな電球からの多量の放射熱を新生児に集中します。容体の悪い緊急手術の赤ちゃんは、皮膚が受けた多量の熱を、血液循環では運び切れなくなってしまうのです。
これら皮膚温の急激な変化についての理由を理解するには、かなりの時間を要しました。

様々の経験が、2代目(スポーツガーデン)、および、今回の3代目(リハ研)プールの計画に大いに役立ちました。
 
2.初代プールと2代目プールについて
当地に建設された初代プールは、関東大震災からの復興途上、1926年(昭和元年)にすでに使用を開始しています。当時の写真(写真3)から、多くの事を学ぶことが出来ます。

写真3 初代の南湖院プール(1926年建設)
 
80年も前のことです。「闘病生活環境を整備する」、「リハビリ治療を実施する」などの要求に応ずるゼネコンや設計事務所があったでしょうか。おそらく、開設者(祖父高田畊安)本人が計画し、建設したものと考えられます。
この屋外プールは、地形を巧みに利用して風を防ぐといった利用者の体温喪失を抑制する仕組みや、温泉の掛け流し方式(オーバーフロー方式)をプールに応用した水質の維持管理方法等、きわめて先進的手法が随所に見られるプールであり、建設されてから半世紀の間に、様々な利用法を経験したプールでもありました。(南湖院のプール参照)

1983年、初代プールの北側に造ったのが、2代目のプールである「太陽の郷スポーツガーデンプール」です。
この屋内温水プールは、温熱環境整備・水質管理法・自然エネルギー利用法等、様々な試みが実施しされ、20年間の運転によって多くの経験と予想を超える成果を得ることが出来たプールです。
この2代目プールは、「太陽の郷スポーツガーデン」という名称で親しまれ、太陽の郷の居住者や広く市民に利用されてきましたが、急激な社会変動に晒され、「リハビリに重点をおいたプール」に用途を変更し、改築することになりました。
ここでは、2代目プールの、簡単な自然エネルギー利用略図のみを示します。
 

図4 2代目プールでの自然エネルギー利用
 
3.3代目プールの誕生
2代目プールの構造骨組みを3代目プール建設地へ移動中の写真です。(2006年)
写真左の白い2階建ての建物は、明治32年(1899年)に建設した南湖院創設時の建物です。
この写真の手前に位置する昭和5年(1930年)に建設した旧南湖院の医局棟の北側に移動しているところです。
写真4 2代目プールの構造骨組みの移動
3代目プールの建設に当たっては、2代目プールの主要な構造である大断面木造集成材および付属部材を変えずに使用し、木造建物が温水プールに適していることが証明出来ればと考えました。
「20年間の多湿環境下での木材の腐食」が心配されましたが、厳密な検査の結果「大断面集成材構造は健全であり、そのまま使用が可能である」との診断を受けましたので、建築後の補修方法や維持管理方法を考えた上で、旧南湖院医局棟の北側に移築しました。
なお、建築後80年の旧医局は、構造骨組みをそのまま使用し、水泳に必要な準備棟に改修しています。この建物はプール棟の南側に位置するので、北側の屋根に反射塗料を塗り、プール棟に光を送るレフレクターとしました。
ここに、3代目のプール「太陽の郷リハビリテーション研究室プール」が誕生します。

2代目、3代目のプールを企画するに当たり、最も悩まされ難しさを感じたのは、現行の習慣や法規制が、「理に適った工法」の実施を妨げていることでした。
ご存命であれば95才になられる、今は亡き押田勇雄教授は、「今や、冷暖房は恒温槽理論をやめ、かわって、熱流理論によって組み直さなければならない。」と、半世紀前に警鐘を鳴らしておられます。
地球環境の悪化が叫ばれている今日、経済につながる目先の対策だけでなく、基本理論の再検討が切に望まれます。
 
写真5 南湖院の衛生講話(9月初旬)
写真6 南湖院の衛生講話(11月末)
 
写真5は9月初旬、写真6は11月末に撮影した、南湖院で行われていた衛生講話の様子です。夏(写真5)は太陽熱を「よしず」で防ぎ、砂丘の斜面を利用して海風で涼をとり、冬(写真6)は構造物を利用して冷たい北風を防ぎ、日向に丸まって太陽熱の恵みを享受しています。この2つの写真からも、当地に伝承されている自然に逆らわない理に適った、寒さ・暑さ対策の基本理念が分かります。
南湖院の創設者高田畊安は、ある計画を実施するとき、次の原則を基準に判断したと考えられます。
(1) 無理なことをしないこと(道理でないことや説明出来ないことは実施しない)
(2) 無理な要請には応じないこと(圧力のもとに、道理でないことを要請されても応じない)
(3) 無理にならない実施方法をすること(やりやすい方法を考える)
この判断基準は、現在も当地に継承されています。

「無理が通れば道理は引っ込む。」自然の理に適った新しいことをしようとする時、プール計画者の脳裏を過ぎるのは、この諺です。
「道理に反する不正が世に通用するようになれば、道理にかなった正義は行われなくなる」との意味で一般に使われていますが、計画当事者には、「基本あるいは理論に反する技術が徹底して指導され通用しているので、道理に適った技術は使われなくなった、または、使えなくなった。」と感ずるのです。
 
4.屋内温水プールの寒くない環境
体内の熱が外界に移動した時、すなわち体温が失われた時、人は寒いと感じます。
寒さの感じ方は、体温の失われ方(速度や喪失総量等)や、熱の補給(外部からの加温や体内生産)等、多くの要素が組み合わさって変わりますが、プールをリハビリの場として利用する場合の「寒く感ずる要素」は限られてきます。

現在「寒くない環境」は、空調暖房方式により調整するのが一般的です。しかし、この空調暖房方式(および現在の断熱方法)を屋内温水プールに施工することには、理論的矛盾や施工上の無理があると感じています。
過剰な設備を設置して、多量の化石燃料消費(大量のCO2を排出)を容認し、理論的矛盾を蔑ろにする風潮は、「空調でなければ暖房でない」的な社会通念により形成されてきたものかもしれません。
現在は、「無理が通り、道理は引っ込んだ状態」であると思います。
 
4-1.人体からの熱喪失ルート
プール利用者は、体の熱が皮膚から外界に移動すると「寒い」と感じますので、これを防ぐために、熱の移動経路を知りそれに見合った無理のない対策をとる必要があります。
昔々の赤ちゃんとの付き合いから、体温は対流・放射(輻射)・伝導・蒸散の4つの経路を経て、外界に失われることを教えられました。
ここでは、言葉の意味を次のように使います。
(1) 対流 肌に触れた空気が熱を持ち去ること
(2) 放射(輻射) 肌から外界に、自然に熱が移動すること
(3) 伝導 肌に触れたものに熱が移動すること
(4) 蒸散 肌や肺からの蒸発によって熱が移動すること
   
以上4つ経路で放熱されますが、寒さは対流と放射が主要な役割を果たしています。
図5 体温の放熱経路
 
4-2.人と建物の温熱対策
高温多湿の熱帯地方では、裸の生活が昔からの姿です。対流および蒸散による熱移動を促進するため、開放的な家に風を誘導し、素肌を風に晒す生活をしています。太陽からの放射熱は屋根で防ぎ、風が通る構造による無理のない暑さ対策です。
「暑さ対策の逆は寒さ対策になる」とすれば、寒冷地の生活は正にその逆です。厚い衣服で肌を覆い、家を密閉して風の侵入を防ぎます。暖炉によるドラフト(風の流れ)まで、椅子の背もたれを高くして防ぐほど徹底しています。
以上のことからみれば、皮膚に直接風が当たれば、「寒さ対策には逆効果」となることが分かります。
空調暖房では、室温を保つため空気を使って熱を室内に送ります。さらに、部屋の温度を隅々まで均一に維持するため、ダクトからの空気の吹き出し速度を速くします。

「裸の寒さ対策に風を使う」手法には、無理があるのではないでしょうか。 空気の代わりに、水を使って暖房熱源を送る方法もあります。温水暖房ですが、「設備費が嵩み、冷房が出来ない」等の理由で敬遠され勝ちですが、放射熱による暖房のため、風がなく快適な温熱環境が得られます。
空調暖房や温水暖房は、暖房熱源をつくるのに燃料を使いますし、熱源を部屋まで運ぶのに動力を使います。どれだけのCO2を排出しているのか、気になります。
 
4-3.太陽の郷のプール(リハ研プール)の事例
太陽の郷のプールでは、太陽熱で遊泳に必要な温水を作り、この温水の熱をそのまま暖房に使います。温水といっても、30℃程度の水温ですから、放射面積を拡大するなどの工夫が必要ですが、この暖房方式を利用すれば、CO2排出量を一般的な空調暖房より格段に減少出来ることが実証されています。
当地3代目プール昨年1年間の実績では、補助暖房が必要な日は、2日だけでした。

太陽の郷(リハ研プール)の暖房方式の概要は、以下のとおりです。
(1) 太陽熱を屋根一体型集熱器で集め、プールの水(予備槽を含めて300立方メートルの水を保有)に30℃前後(遊泳に適する温度)で蓄えます。
(2) プール水を暖房の熱源として利用するため、
 
(a) プール水面からの蒸発・対流および放射による熱移動(放熱)をさせます。
(b) 天井や壁に反射機能を持たせて放射熱の躯体への吸収を阻止し、外部への熱移動を抑制します。
(c) 壁面に吸収された熱は、断熱材を使用して熱移動を抑制し、壁面温度を維持します。
(d) 換気量を少なくして風をなくし、高い湿度を維持して蒸散による体温喪失量を減少させ、体感温度を確保します。
(e) 天候不順等による体感温度の下降には、壁面や床面にプールの循環水の一部を流して、プール温水の放熱面積を増やし、暖房のために放熱量(熱供給量)を増加させます。
 
4-4.熱を室外に逃がさない工夫
プールの熱エネルギーは、直接地中に移動するものと、プール棟室内空間を介して戸外空間に失われるルートがあります。
地中への熱喪失防止対策には、夏期の余剰熱を表層地下水流層に還水し、プール水温と地下水の温度差を少なくする対策があり、2代目プールでは成功していますが、3代目プールでは実績が明瞭ではありません。(詳細説明を省略します)
次に、屋内空間から戸外空間への熱喪失経路を見ますと、先ず、(1)蓄熱体である水から、プール棟室内空間へ熱が移動し、次に、(2)室内から戸外への熱移動が起こります。
プールを使用している時(営業時間)は、(1)の室内空間への熱移動は、即暖房を意味しますので歓迎されますが、営業時間外の夜間は、放熱を抑制する対策が重要になります。
夜間、プールからの放熱を抑制するには、a)水面からの放射による熱移動を少なくする対策と、b)水面からの蒸発による熱喪失を防ぐ対策が必要ですが、リハ研建物での実験では、a)の放射防止対策よりb)の蒸発防止対策が格段に有効であるとの結果を得ました。(天井の反射効果の影響が考えられますが、詳細は改めてお話します。)
営業時間外の夜間は、無人であるため水面全体をシートで覆うことが出来ます。水表面を隈無く覆う蒸発防止策が、気化の潜熱を抑制し、水温の維持に役立ちます。
次に、(2)の室内空間の熱が戸外に移動するルートは、室内壁面が熱を受けて吸収し、壁等構造体内を移動して建物外壁面に達し、対流と放射によって戸外空間に失われます。(図6)
 
リハ研プール熱喪失防止法は、室内空間からの放射熱を、壁や天井に設けた反射率の高い表面素材で反射し、躯体への熱吸収を阻止します。壁や天井の熱吸収量が減少すれば、当然戸外空間への放熱量も減少することになります。
なお、建物の戸外に面する壁面からは、対流・放射等によって熱移動が起こりますが、つた等の植栽によって放熱を防ぐ方策も同時に実施しています。
図6 室内から屋外への熱移動
 
4-5.放射の概念を温水プールに利用する
映画「アラビアのロレンス」で見た砂漠を疾走するラクダ上の人々、灼熱の炎天下の服装が気になります。衣服の素材や厚さは分かりませんが、頭から足先までを衣で被い、放射熱を直接受けるのは、「顔面のひげのない部分」だけです。「日本の暮らし」からは、全く想像出来ない「出で立ち」です。
同様に、アラブ女性の全身を覆う服装(ブルカ)、「戸外の想像を絶する放射熱から大切な女性を守るためにできた風習」ではないかと考えています。
大げさに言えば、絶乾状態(加熱して乾燥したもの)の直射日光の下では、あの服装こそが、「強烈な放射熱から女性を解放できる」唯一の策なのでしょう。

3代目プールの主要テーマは、放射熱が益する場合は有効に利用し、有益でない放射熱は事前に阻止する対策です。
建物全体をブルカで包み、プール棟内からの熱移動(放射・対流)を制御出来ないか。理論的には有効でも実施は到底無理です。
そこで、当地3代目のプールでは、魔法瓶の構造の反射原理を真似、施工可能な無理のない構造のプール棟をつくりました。魔法瓶構造の真空は、反射面の維持と熱移動阻止に絶対的効果がありますが、建物には到底無理です。
実施可能な手法として、リハ研プールでは、ガルバリウム鋼板、ラミネートされたアルミ箔シート、および、アルミ粉体を顔料にした反射塗料を利用し、広い面積を反射板としています。
リハ研プールの魔法瓶構造を、図7に示します。
(1) 屋根一体型太陽熱集熱器
(2) 可動式断熱戸(太陽熱集熱器の裏面にあり、開け閉め出来る。下面を反射塗料で塗装)
(3) トップライト
(4) 反射壁(ガルバリウム鋼板素地)
(5) 流水壁(プール温水を流し熱放射面とする)
(6) 流水床(プール温水を流し熱放射面とする)
(7) プール水(蓄熱された熱を放射)
(8) アルミ箔シート張りの天井
図7 リハ研プールの魔法瓶構造
 
プール水に蓄えられた熱は、(7)のプール水表面、(5)の流水壁、(6)の流水床より、プール棟空間へ放射されます。放射された熱は、(8)の天井、(2)の可動式断熱戸の下面、および(4)のガルバリウム反射壁で反射して再びプール棟空間に戻ります。
プール棟空間は、水面からの放射熱、および、反射熱によって満たされ、良好な温熱環境が構成されることになります。(ホームページ「光(熱)を反射する」参照)
 
5.最後に
写真8は、曇天時に撮影した写真です。
影がなく、部屋の隅々まで均等に明るく、色は薄い水色です。
侵入した天空光の一部(赤)は吸収されて水色となって放射され、反射板で反射を繰り返して室内に均等に拡散していることが分かります。

光と熱が同じ様式で移動するのであれば、この隅々まで明るい水色に満たされたプール棟内空間は、水面からの放射熱が、隈無く室内に広がって温熱環境を形成している空間であると解釈されます。
写真8 リハ研プールの放射(反射)環境
 
太陽熱で30℃に温められたプールの水は、十分暖房の熱源として利用できます。
以上、まとめますと、
(1) 暖房熱源は、プール水として室内に蓄えられています。これを上手に放熱すれば、寒くないプール棟の空間が出来ます。
(2) ただし、水温30℃の放熱量は多くありません。放熱量を増やすには放熱面積を広げる必要があります。当プールの面積拡大法は、プールの循環水の一部を壁や床に流すことです。
(3) 温熱環境に必要な熱は、プール水面、および壁面・床面から放熱されますので、放熱のための機器は必要ありません。
(4) 反射板は躯体への熱移行(吸収)を阻止しますので、戸外への熱喪失量は減少し、室内温熱環境の形成に役立ちます。
(5) この方式は、風を必要としませんので、送風機および運転動力が要りません。風がないので、肌表面にある暖かい空気は動かず寒くありません。
 
近年、地球環境を破壊するCO2の排出量抑制が叫ばれています。自然エネルギーを上手に利用し、無理のない、道理に適った暖房方法を検討すべき時です。

リハ研プールは、暖房の方式のみでなく、水質管理法(細菌増殖抑制方式)・太陽熱段階利用法(カスケード方式)・地下表層水利用法(地中蓄熱方式)等の多くの応用技術を試みています。
ご連絡いただければご案内いたします。
 
高田 準三(平成21年8月)

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