茅ヶ崎 太陽の郷
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太陽の郷随想(よみもの)

茶毒蛾と痒み


茶毒蛾(チャドクガ)について
上下続きの作業衣と襟にタオルを巻く、毒牙の侵入を阻止する物々しい出で立ちで作業をしても、チャドクガの被害に遭うことがあります。もちろん、帽子・手袋(革製)もしていますので、素肌がでているのは顔だけです。
最近75歳の男性が、こんな経験をしました。被験者は、虫に刺されるとなかなか直らない体質の持ち主で、素肌を直射日光に晒すと、真っ赤になり、小さな水泡ができるなど、いわゆる「皮膚が弱い」体質かもしれません。

お茶のおもてなし(茶会)に好まれるツバキ(椿)、白と赤を基調とした様々な花、慎ましくまとまった形から、にぎやかな姿まで、変化に富んだ花の数々が客人のもてなしに適しているのでしょうか。
好きな花の一つです。しかし、近年(20〜30年以前より)ツバキ(サザンカ・茶)の葉を餌に、多量に発生する蛾の幼虫(成虫)に悩まされています。
外来種なのでしょうか、戦後(第二次世界大戦)気づくようになったいやな虫、アメリカシロヒトリ・イラガ・チャドクガのうち、チャドクガのみが未だに猛威をふるっています。犬小屋の脇で活きよいよく成長していたクルミの木、周囲の土が煉瓦色になったので上を見ると、坊主になった木の残り葉に、見たことのない白い毛虫の群れ(アメリカシロヒトリ)に驚いたのは、30〜40年も昔のことです。ウメを剪定していた時、蜂に刺されたような痛みに襲われたのはイラガでしたが、現在は見ることがなくなりました。茅ヶ崎は、これらの虫にとって住み難いところになったのでしょう。しかし、チャドクガだけは、今も盛んに増加しているようです。

チャドクガ被害との出会いは、蛾(成虫)によるものでした。作業中胸全面に、強烈な“かゆみ“を感じ、裸になると鮮紅色の小さな発疹が胸全体に広がっていました。下着を丹念に調べましたが、蛾の姿は見つかりませんでしたが、確証のないまま、「チャドクガの鱗粉による皮膚炎」と思うことにしました。
以後何回も、最初より小範囲ですが、頸部や前腕・上腕、胸・腹部、大腿部の柔らかな部分がチャドクガ被害に遭い、痒みに苦しみました。ステロイド・抗ヒスタミン剤などあまり効果はなく(痒みをとることと、発疹がなくなる期間の短縮)、痒みは1週間、発疹は2〜3週間つづきます。寝床でじっとしていると、忘れていた痒みが現れ、場所を特定できない強烈な痒みに悩まされます。これが1週間も繰り返されると、総てのツバキをなぎ倒し、焼却処分したい衝動に駆られます。見ての楽しみより、痒さの苦しさが遙かに優位です。
かゆさについて
かゆい感覚は、「主として皮膚・粘膜の痛点の弱い刺激によって生ずる感覚」と広辞苑に記載されています。しかし、皮膚表面にある痛点(痛みを感ずるところ・受容器・receptor)のみでなく、組織内圧を感ずるreceptorまたは神経があると考えると説明に便利なようです。専門家でないものの説明ですので、ご承知下さい。

最近の経験から、「組織内圧が直接神経を刺激する」との説明に都合の良い仮説をたててみました。ここでは、組織内圧上昇の程度により、「強烈な痛み」(虫歯やひょう疽) → 「痛痒さ(強烈な痒さ)」(チャドクガ) → 「痒み(普通の痒さ)」(蚊に刺される)(傷が治るとき) → 「重苦しい・はれぼったい・だるい(広範囲の軽い内圧上昇)等」と、分けて考えてみます。皮下組織が緻密にできている指先や、柔軟性が全くない歯に炎症が起こると、組織内圧は急激に上昇し、激しい痛みとなります。ズキンズキンと脈圧に同調する痛みは、炎症部に柔軟性がないことの証でしょう。
蚊に刺されたときも、場所によって痒さの性質が違います。たまたま指先を刺されたときの痛痒さは、普通の痒さではありません。重苦しいような、痛いような何ともいえない痒さです。

では、チャドクガの激しい痒さの原因は、どこにあるのでしょうか。まだ、指先とか足の裏など、比較的硬い皮膚が痒くなったことはなく、大方柔らかい皮膚が痒くなります。蚊のように、刺された場所が大きくふくれることはありません。チャドクガでは、蚊のように薄く赤いふくらみでなく、鮮紅色の小さなぶつぶつであり、時間がたつと、ぶつぶつの中央が水疱に変わりますが、痒さは強烈で長期間続きます。指先を蚊に刺されたときの痒さに似てはいますが、もっと強烈です。数が多いからかもしれません。
原因はどうあれ、何とかかゆみを和らげることはできないものでしょうか。
かゆみを和らげる(痒み対処法)
何度もチャドクガ被害に遭い、あれこれ試した結果、面白いことがわかりました。(1)痒みを止めるには、局所を温め末梢循環を促進させることが有効です。(2)発疹のなくなる期間も、末梢循環の善し悪しに関係することは確かなようです。すなわち、(アナフィラキシーショックのことを考えなければ)薬を使わない民間療法として、熱いお湯のシャワーを局所にかける(または、熱いタオルを当てる)ことが。痒み対処法としてお薦めできると思います。
ただし、この方法は、局所が急に温度上昇しますので、一時的に強烈な痛痒さ(気が狂いそうな)を感じますが、しばらくすると痒みは消失し目的を達します。
皮膚全体が赤くなり、発疹がはっきりしなくなるのは、末梢循環が最高に盛んになった証であり、組織内の様々な条件・組成が好転する兆しと考えます。
「痒さを感ずる閾値(感覚受容器の興奮をおこさせるのに必要な最小の刺激量)は、温度上昇により低下する」(蒲団に入ってしばらくすると痒くなる)といわれていますので、冷水シャワーで試したこともありますが、熱いシャワーが確実に効果的です。入浴後の痒みの消失効果のみでなく、赤いぶつぶつがなくなるのも早いようです。
先日、長い間慢性の湿疹の痒さに悩まされている方の、痒み対処法を伺いました。
「45℃くらいの熱いシャワーをしばらく続け、最後に冷たいシャワーにして皮膚を冷やす。効果てきめん、痒さから解放される」とのことでした。
人は、それぞれ独自の自己防衛手段をあみだし、実施していることがわかります。経験上有効な方法をしり、適切な理論付けができると、痒さの悩みに貢献できるのではないでしょうか。
痒さをつくるもの
熱いシャワーの効果を、組織内圧と掻痒感の関係で考える前に、局所に激しい炎症を起こすもの(化学的または物理的刺激)の形態について、走査電子顕微鏡(SEMと略す)写真(越原晴美撮影)を対象に検討します。
試料は、文頭に述べました75才の男性が、チャドクガ被害を受けた椿の、チャドクガ幼虫の脱皮殻から採取しました。

SEMで検討できる範囲は、ごく限られています。SEMでは、何が炎症をおこす原因物質となっているかは分かりません。

写真は、幼虫の抜け殻からとった、毒針と思われるものの写真です。
カーボンテープに張り付いた針の大きさは、写真右下の白線の長さが、0.1mmですので、ご想像下さい。
大変細く小さなものです。この形状から想像しますと、針状のものが作業衣を通過して皮膚表面に刺さると考えても無理はありません。 脱皮した殻があった枝を処分するため、枝を抱える作業をした後、両側の上下肢に発疹ができたことから、脱皮後の殻に炎症の原因があると考え、検鏡しました。成虫(蛾)の鱗粉や、幼虫(生きているもの)の毛の試料は、今回はつくりませんでした。
拡大を大きく(2000倍撮影)しますと、太い針の側壁には、細い小さな針が多数分岐しているようです。(写真右下の白線の長さは、0.01mmです。)

鋭く尖った針は、銛のようにも見えますし、いかにも刺すために発達した形、“毒牙”の形をしているように見えます。

ハチ(蜂)は針で刺して液体(毒液)を注入する形とのことですが、チャドクガの場合は、針自身に毒(炎症を起こす物質)があると考えるのが、自然です。
針先端部を、同じ倍率で撮りました。先端は二つに割れ、銛のように見えますが、小さな側壁のはりは、簡単に折れるようです。

これだけ小さいと、布の目を容易に通り抜けることができのではないでしょうか。
 
末梢循環不全と発疹の治癒
枝を抱えたときに、毒針に見舞われたのでしょう、今回は、四肢に多数の発疹ができました。
被験者の下肢には、何時も軽いむくみがあり、苦痛はありませんが、上肢に比べて末梢循環(皮膚周辺の循環)が悪いことが予想されます。
たまたま、同じ毒針の炎症が四肢にできましたので、治り方を上下肢で比較することとしました。
薬剤は使用しないこととし、痒み対策は、前述の熱いシャワー処置によりました。
発疹ができてから3日後の前腕の写真を示します。

発疹の色は薄くなり、水疱はすでになくなっています。 痒み対策としてのシャワー(局所)は、一日数回。3日後には、ほとんど痒みがなくなっています。

1週間以上痒みが続くことが普通ですので、非常によい経過と言えます。

前腕の発疹と比較し、膝関節部の発疹の治りは、非常に遅れていることがわかります。

鮮紅色のぶつぶつの中心には、小さな水疱があり、時折痒くなります。
下腿部の発疹の治りは、前腕の発疹と比較し、非常に遅れていることがわかります。

鮮紅色のぶつぶつの中心には、小さな水疱があり、時折痒くなるのは、膝間接部と同じです。

写真下方に、ソックスの跡が見られますが、軽いむくみがある証拠です。
同じ原因で発症したはずなのに、治る速さがこれほど違うのは、末梢(皮膚組織関係)の循環が、善いか悪いかの影響と思います。局所に運ばれる体液(血液)の組成は同じでも、末梢への体液供給量(体液交換量)が違うことが、治り方に変化を与えているのだと思います。「治る環境を整備すること」最も重要なことです。
最後に
チャドクガ被害からの離脱は、薬剤散布では十分とは言えません。幼虫の抜け殻問題が残っています。
現在の茅ヶ崎は、チャドクガにとって、いわゆる至適環境(気象条件等)にあると考えられます。薬剤散布で絶滅をはかることは、なかなか難しいでしょう。
そこで、(1)こまめに幼虫を見つけて、幼虫のいる枝を焼却すること、及び、局所的に薬剤を散布することと。(2)痒み対策として、温熱療法・末梢循環促進療法(仮の命名)が有効であり、早期治癒に役立つことがわかりました。
 

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